異空間でまどろんでしまう高円寺の喫茶店「ルネッサンス」
高円寺には10を超える商店街があって、個性的な店が集まっています。
だから、商店街をブラブラ歩くだけで面白いし、多くの人がそんな楽しみ方をしていると思います。
だけど、実は商店街からちょっと外れた場所にも興味深い店がたくさんあるのです。
思わずワインを掲げて乾杯してしまいそうな、シブい店名です。
その看板もシブい。
高円寺駅から南へ歩くとルック商店街に入るのですが、そこからちょっと左へ路地を入ったところに黄色い看板が置いてあります。
「地下一階 ルネッサンス 音楽室と珈琲」
シブいですね。
いまはコロナ対策のため、営業時間は正午から19時半までに短縮され、定員は8人までとなっているそうです。
地下へ降りていくと、店の前にメニューが示してあります。
種類は3つだけ。
珈琲 400円
ジュース 400円
ティー 400円
究極のシンプルさ。
これで勝負できる喫茶店なんです。
店内に入るとすぐに、荘厳なクラシック音楽が耳に入ってきます。
左手のレジで注文。
いつもコーヒーなので、きょうはジュースにしてみました。
すると、緑色のプラスチックの札を手渡されます。
これをテーブルの上に置いておくと、注文した品を持ってきてくれるシステムです。
客席で会話を交わすことを避け、音楽鑑賞を邪魔しないようにする工夫なんでしょう。
しばらくすると、鮮やかなオレンジ色をした液体がグラスに入れられて運ばれてきました。
一口飲んでみると、人工的な甘さがのどを通っていきました。
むかし、駄菓子屋でチューチュー吸いながら飲んでいた、あの液体です。
これも懐かしいと言えるのでしょう、きっと。
耳に流れてくるのは古典派やロマン派の時代の音楽ですが、のどを流れていったのは、明らかに昭和でした。
店内には白髪の男性が1人。
じっと目をつむり、微動だにせず、音楽に耳を傾けています、たぶん。
店は全体的に薄暗く、間接照明が独特の雰囲気を醸し出しています。
中央の天井にはシャンデリア。
壁には、ところ狭しといくつもの壁時計が並びます。
換気に気を配っているのでしょう、店の一角で扇風機が回っていました。
ソファーに身を沈めてクラシックを聴いていると、ここがあの騒がしい高円寺の街だというのを忘れてしまいます。
ぼくも目を閉じてみました。
すると、どこかヨーロッパの田舎のお城の中にいるような錯覚に陥り、やがて異空間の中でまどろんでいきました。